Teardrop/『Mezzanine』(1998)

画像この何年かボランティアとか社会貢献とかCSR(企業の社会的責任)とかがブームで、先月(2010年8月)もメジャーな新聞でひと月くらいに渡って特集が組まれていたけど、特集の最初の週に、職場の20歳位年上の先輩のMさんと一緒に最後まで講堂に残って机や椅子を並べたり水浴びしたり化学物質でだらだら涙を流したりしてたっていう作家のEさんの「会社の休みを利用してボランティアで社会の役に立つことをやるというのは悪いことではないが、では、その人の勤めている会社は社会の役に立っていないのか?社会の役に立たないことを仕事としてやっているのか?会社というのは何がしか社会の役に立つものであるはずだ。そこで働くことは社会貢献ではないのか?」というオルタナティブな意見を、メジャーな新聞らしく、同時に、掲載していた。

あ、alternative:オルタナティブというのは、オルタナティブ・ロックという言葉の意味と同じように、「別の」、「代わりの」というより「型にはまらない」「既存の概念を打ち壊す」って感じの意味で使ってるつもりです。
どうでもいいことかもしれないけど。

さて、経済学シリーズのロックのリクエストだけど、まず、経済学がとる分析・研究の手法でとても大事な、「捨象(しゃしょう)」という手法について説明しておく。
列車の一番後ろに乗っていて、次はー、新宿三丁目~、新宿三丁目でございます~とかいう・・・・そら、車掌(しゃしょう)やがな。
会社で一番偉い、クビだーっとか・・そら、社長(しゃちょう)やがな。

捨象(しゃしょう)というのは、「事物または表象からある要素・側面・性質を抽象するとき、他の要素・側面・性質を度外視すること。」である。国語辞典には「(概念を抽象する作用の反面として)現象の特性・共通点以外を問題とせず、考えのうちから捨て去ること」と載っている。

車掌(しゃしょう)さんが一番後ろに乗って列車の動きや顧客の動きを監視、注意して、次に止まる駅の案内をするというのは、車掌の数ある仕事の中の顧客へのサービス、安全管理という側面を抽象していて、その他の、例えば勤務時間だとか給料だとか性別だとか年齢だとかといった要素・側面・性質は度外視している。
社長(しゃちょう)さんが、偉くて(偉そうで?)、クビだーっていうのは、会社の社長という役職の雇用者として権利・義務、人事権を抽象していて、その他の、例えば営業面だとか、会社のルールを決めたりとかいう要素・側面・性質は度外視している。

経済活動というのは、ほとんど人生や歴史と同義で、まあ、カオス(混沌)というか、コンフュージョン(混乱)というかそのようなものなので、捨象、考えのうちから捨て去る、ということをしなければ、共通性や法則性や論理性が出てこない。
あるいは、捨て去ることで、そういったことが明らかになる。

さて、モノの値段と数量は需要と供給の関係で決定されるというアダム・スミスが「国富論」(1776)で「神の見えざる手」と表現した理論は、需要曲線、供給曲線の交わる均衡点が適正な市場価格を表すとして、縦軸に価格、横軸に数量をとった二次元のグラフに表すことができる。

すなわち、例えば、需要側の家計は安くモノが買えるに越したことはないからモノの値段が高くなるほど購入を手控えるので、需要曲線は右肩下がりとなる。
(値段が高ければ高いほど価値があるような感じがして購入しようとする意欲が高まるという種類の商品も沢山あるが、ここではそういったある種の贅沢品は捨象する)
供給側の企業(会社ではなくて、農家とか、漁師とか、猟師とかのモノの生産者・供給者もここでは企業と呼ぶ)は、モノの値段が高いほど売れれば儲かるので生産量・供給を増やそうとするので供給曲線は右肩上がりとなる。
(「え?イカがいっぱい獲れたらそんなに沢山お金欲しくないから安くしてあげるじゃん、普通。」というのも真理だけど、ここでは「一匹1円くらいのフナ虫より一匹300円のイカを獲るとお金に変えれてお米を買えるからフナ虫じゃなくてイカを獲る。10匹獲ってきたら3000円になったから、もう一時間粘って20匹獲ってやろうとする。そんなことを思って釣っていたら仲間が来て、イカは一匹30円でしか引き取ってくれなくなったぞと連絡が入ったら、なんだ、じゃあやめて帰ろう」という漁師の行動を抽象する)

この右肩上がりと右肩下がりの二本の曲線の交わる点(均衡点)で、モノの数量と値段が決まる。
また、このことは供給側が少なくて需要側が多ければ(超過需要)、供給側により大きな価格決定権が移り、
逆であれば(超過供給)、需要側により大きく価格決定権が移る、ということも示している。(このことはまた数学、微分とか積分のお話の時にでも…)
モノの値段だけじゃなくて、「金利」や「賃金」も同じような需給バランスの図式で示すことが出来る。

とはいえ、実際の市場価格はなかなかそうならなくて、その説明も色々な理論がある。

例えば、合成の誤謬(ごびゅう)。
合成の誤謬とは、個々の行動は理にかなった正しいものであっても、全体で見たときには望ましい結果とならないことを言う。例えば、将来に備えて個人が貯蓄に励むことはけして悪いことではないけど、全員が消費をせずに節約して貯蓄に励めば、モノが売れなくなる。モノが売れなければモノを作っている人の所得が減る。モノを作っている人の所得が減るとますますモノが売れなくなる。いわゆる「不景気」というやつだ。

例えば、限界効用逓減の法則。
一杯目のビールは美味しいけど、二杯目、三杯目のビールはだんだん美味しくなくなる。一杯目も二杯目も三杯目も、現実的には値段は変わらないけど。

例えば、ゲームの理論。囚人のジレンマ。
核兵器がなくなれば、平和になるということは、各国みんな知っている。核兵器にお金をかけるより、教育や福祉や快楽やにお金をかけたほうが良いに決まっている。その方が国民に好かれるし、みんなハッピーになるに決まっている。そんなことが分からないほど、人間はバカじゃない。でも、核兵器はなくならない。
この、相手国が裏切って核開発をはじめる恐怖に耐え切れず、双方とも核開発をはじめてしまうというのは「囚人のジレンマ」「恐怖の均衡」というゲームの理論で分析されている。
人を殺すのは嫌だけど、人に殺されるのも嫌だという、本当には二律背反しないことを両立できない。なので、「ジレンマ」というのだけど・・・。

例えば・・・と、きりがないので、合成の誤謬とか、限界効用逓減の法則とか、ゲームの理論とかは、また、きちんと別のリクエストの時におしゃべりするとして、次回は、「モノの値段」の決定メカニズムとしての「神の見えざる手」に真っ向から反対したマルクスの「資本論」における「モノの値段」について書きます。
遅れている60年代ロックをリクエストしなくちゃね。

あ、今日のリクエストは、Massive Attack:マッシヴ・アタックの歴史的名盤、これぞオルタナティブ・ロックって感じの『Mezzanine:メザニーン』(1998)から、"Teardrop"。
セミの声も聞こえなくなって、カブトムシも、クワガタムシも姿を消した夏の終わり。まだまだ暑いけど、朝晩は少し過ごしやすくなった。
メザニーンというのは、劇場の桟敷席、中二階という意味だけど、メンバーの3Dはこんなふうに言っている。
「前にも後ろにも分裂症が待ち構えているっていう、そんな病んだ精神状態のこと。あるいは昨日も明日も絶望に打ちひしがれた世界がそこに横たわっているっていう、そんなどうにも身動きがとれない状態のことなんだ。」
(buzz/rocking on:宇野維正さんのインタビュー)

まあ、とにかく、記録的な猛暑も終わって、涼しくはなるし、きっと食欲も出てくる。夜も良く眠れるようになる。寝過ごしたりする季節だけどね。
暑さと寒さが均衡する秋。暑くもなく、寒くもない、どっちつかずの身動きのとれない季節と言ってもいいけど、せっかくなんで美味しいものでも食べたらいいと思う。

upset the apple-cartへのリクエスト(382)
コモン・ストックへのリクエスト(396)
手前勝手なブログ内リンクです: Negative/『Six』(1998)

画像もう一曲、リクエストを頂いていたので、ビリー・ジョエルをリクエスト。"New York State Of Mine":「ニューヨークの思い」/『Turnstiles』:「ニューヨーク物語」(1976)。ビリー・ザ・ベストにも入ってる大名曲。

『Turnstiles』は、「さよならハリウッド」も入ってる、大ブレイク直前の名盤です。

"New York State Of Mine"は大名曲なんだけど、ちょっと、全盛期はもう少し前のピアノ・マンの一人、Leon Russel:レオン・ラッセルの"A Song For You"に似ている。と、いうか、ほとんど、同じ曲というほど、良く似ている。

時々声が裏返る、レオン・ラッセルの"A Song For You"も本当に大名曲。もちろん、ヒットもした。

一般に男性は"A Song For You"で、女性は"New York State Of Mine"が好きなようだけど、これは、もちろん経済学の理論ではうまく説明できない。



画像ビリー・ジョエルの「ニューヨークの思い」は、Loveも恋も出てこない、ただ街について歌った歌で、
レオン・ラッセルの「ソング・フォー・ユー」は、べたべたのラブソングなのにね。

不思議ですね。

upset the apple-cartへのリクエスト(383、384)
コモン・ストックへのリクエスト(397、398)
手前勝手なブログ内リンクです:New York State Of Mind/『Evolution』(1993)

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